NISM コラム
お金にまつわるつぶやき
Vol. 2 楽器のお値段 1
投稿日:2022.06.29
いきなり、楽器の話になってしまいますが、6月9日にヴァイオリンの名器、ストラディバリウスがオークションに出品され、翌10日に1,534万ドルで落札されました。これまでの史上最高額は2011年にロンドンで落札された「Lady Blunt」の1,590万ドル(980万8千ポンド)で、今回は史上2番目の高額落札になりました。実は2011年の出品者は、日本音楽財団で落札価格の全額を東日本大震災復興のために寄付をしています。当時の為替では約12億円でしたが、今回は円安ということもあり、邦貨換算では約26億円になりました。ちなみに日本音楽財団の母体は日本財団で、2011年までの名称は財団法人日本船舶振興会です。
さて、ストラディバリは多作で多くの楽器が現存しています。全体で約600挺、そのうちヴァイオリンが約520挺ほど今日まで残っています。今回取引されたのはその中でも特に傑作と評価されている、1714年製の「da Vinci, ex-Seidel」。ダ・ヴィンチとはこの楽器の愛称で、”ex-Seidel”は前のオーナーの名前です。ザイデル(1899 – 1962 Toscha Seidel)は、ウクライナ(当時はロシア帝国)のオデッサ出身のユダヤ人ヴァイオリニストで、後年はアメリカ西海岸に移住して活躍しました。彼が1924年に入手した時の価格は、2万5千ドルと言われていて、生前は100万ドル積まれても手放さないと言っていたそうです。
今回の事実上の出品者は、株式会社壱番屋(CoCo壱番屋)の創業者である、宗次徳二氏です。カレーチェーン店のオーナーが何故ストラディバリウスを所有していたのかという疑問はあります。宗次徳二氏の半生はまさに波乱万丈で、特に社会人になるまでに想像を絶するようなご苦労をされた方です。特に幼少期、少年期には社会的支援を多く受けられたそうで、自分で事業を興すようになってからは、借金をしてまで社会全体への寄付を続けてこられました。
2002年に引退し、2003年に福祉施設、ホームレスの支援、音楽やスポーツの振興を目的にNPO法人を設立しました。無類のクラシック音楽好きということもあって、音楽家に演奏する場所を提供するために2007年に名古屋市内に宗次ホールを建設し、演奏する機会を提供するためにコンサート企画をし、若い才能を発掘するためにコンクールも主催するようになりました。そして優秀な演奏家に優れた楽器を貸与するために今回のストラディバリウスを所有していました。
実際にこのストラディバリウスは、宗次ホールを運営する株式会社ベストライフの所有になっていましたが、会社がストラディバリウスを減価償却してしまっていました。その点を2019年に名古屋国税局から約20億円の所得申告誤りとして指摘をされ、追徴税を支払った経緯があります。恐らくホールにあるピアノなどの楽器と同様に“備品”として減価償却してしまったものとみられます。
法人税法上認められている減価償却資産とは、「時の経過によりその価値が減少する資産」のことを指しています。しかし「歴史的価値、希少価値」があると認められる、書画・骨董などの美術品は、減価償却が認められていません。楽器の中でもストラディバリウスのようなヴァイオリンは製作されてから300年間、ずっとその価値が上がり続けてきたのですから、当然減価償却が認められないということになります。
注 ストラディバリが製作した楽器をストラディバリウスと慣習的に呼んでいます。