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NISM コラム

お金にまつわるつぶやき

Vol. 24 官僚に頼らずに金融政策を立案しろ!

投稿日:2023.02.13

 日銀総裁人事が決まりました。当初は副総裁の雨宮氏が昇格するという情報が流れていましたが、なんとダークホースで学者出身の植田氏が総裁に就任するとのことです。事前に情報が漏れたので急遽変更になったのではなく、雨宮氏というのは「観測気球」だったとの情報もあります。本当にそうだとすればそれは雨宮氏に対して大変失礼なことをしているわけですし、この時期に「辞退」というのも変です。まぁ、日経新聞がガセ情報に踊らされたということで、政府は幕引きを図りたいのでしょう。

 日銀総裁人事は、総裁1名+副総裁2名の3名セットです。構成は、日銀出身者、財務省出身者、学者出身で、日銀出身者が総裁の場合は、副総裁が財務省出身者となる、たすき掛け人事です。残る副総裁はおおよそ常に学者出身者ということになります。とはいっても日銀出身で財務省に出向経験があって、現在は大学教員という方もいらっしゃるので、その区分はいくらか曖昧です。

 さて、黒田総裁は財務省出身者ということで、今回は日銀出身者が総裁になる順番でしたが、日銀出身の雨宮氏の名前が事前に漏れてしまい、「急遽?」学者出身の植田氏になってしまったのでしょうか。今頃になって総裁就任の打診をしたり、それを辞退するということは考えにくいので、政府の茶番ということにしておきましょう。

 2期10年+18日と続いた黒田総裁は、「異次元の金融緩和」という方針を打ち出していましたが、これは安倍政権のインフレ目標2%に呼応したものです。安倍政権では失業率2.5%以下を達成することによって、ゆるやかなインフレ目標の2%を実現することを公約にしていました。10年前も現在も日本経済の最大の課題は「需要」の弱さに起因する不景気にあるからで、景気回復を目指していたわけです。

 日銀は言わば政府の「子会社」ですから、日銀の政策と政府の政策に矛盾が生じることはありえません。つまり当初から日銀の独自性などはあるわけがないのです。したがって植田新総裁になったからと言って日銀オリジナルのシナリオが出るわけではありません。

 翻って植田新総裁の過去の発言を見て行くと、「0金利政策は、ハイパーインフレを起こす危険があり、金融機関経営が難しくなり、金融仲介機能を壊して経済を悪化させる」と述べています。つまり「異次元の金融緩和」に対して懐疑的な立場の方です。

 実際にハイパーインフレは発生しませんでしたし、異次元の金融緩和の目標は、2%程度の緩やかなインフレの実現であり、それを達成するために失業率2.5%以下の雇用環境の改善と需要の強化でした。つまり景気回復がアベノミクスの目的であったわけです。

 この点について、植田新総裁が就任後国会でどう発言するのか注目に値すると思います。金融機関の経営改善のために金利を上げ、それによって2%程度の緩やかなインフレを目標にするとなれば、増税、金利引上げありきの岸田政権の政策と一致します。これは財務省の思うつぼですね。

 金融機関の経営はゼロ金利政策の影響で確かに悪化しています。しかし悪化の原因はゼロ金利政策だけではないはずです。銀行経営自体がバブル崩壊後に税金を投入して延命処置状態にあるからで、銀行経営自体に改革が求められているはずです。延命処置を受けた金融機関が格好の天下り先となっていることを忘れてはならないと思います。新総裁が金融機関の経営改善のために金利を引き上げるとすれば、天下り先の確保・拡大以外の何物でもありません。

 問題のひとつは、過日このブログ(防衛費)でも紹介しましたが、企業の内部留保です。総額518兆円もの資産が企業のバランスシートに眠っていて、そのうち200兆円以上は現金です。つまり企業は金融機関からの借り入れを最小限に抑えることができているのです。企業の内部留保に課税をすることで、すべてが上手く回り出すということを認識しなければなりません。

 企業内部留保に課税をすると企業価値が減るという御託も並んでいますが、この点でも日本は今やガラパゴス状態です。企業は課税を避けたいので、設備投資、雇用(賃金)にお金が回ります。結果として生産性があがるので株価も上がでしょうし、従業員の購買意欲(需要)も改善されるでしょう。そうすれば、景気全体が改善され失業率が改善され、税収も増えます。防衛費増額分も増税なしで賄うことができ、金利は自然にそして緩やかに上昇し、金融機関の経営も改善されます。政治家が官僚に頼らずに金融政策を立案できないと、官僚の天下り先だけが肥えることになりますよ。

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