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NISM コラム

お金にまつわるつぶやき

Vol. 4 トリガー条項があるにも関わらず、ガソリン税が減らない理由

投稿日:2022.07.14

 現在、ガソリンに課せられている税金(まとめてガソリン税)は1リットルあたり、1)揮発油税48.6円、2)地方揮発油税5.2円の合計53.8円の他に、3)石油石炭税2.04円、4)温暖化対策税0.76円があり、合計56.6円です。この税額は暫定税額で、本来の税額は、1)揮発油税と2)地方揮発油税がそれぞれ24.3円と4.4円なので、3)と4)を合わせた合計金額は、31.5円となります。つまり暫定的に25.1円増税、あるいは税率が約1.8倍にされていることになります。

この「暫定」増税は、1973年から1977年までの道路整備五か年計画の財源の不足分を補うという特定財源確保のための目的税として、また受益者負担というコンセプトで導入されました。しかし「暫定」にも関わらず35年間も「延長」され続けて2009年度末には、一般財源化され、「期間を定めない特例」として租税特別措置法が改正されてしまいました。

実はこの法律は、旧民主党鳩山政権下での決定です。さすがに際限のない無期限というわけにもいかず、ガソリン価格が160円を超え、その期間が3カ月を超えた場合にはこの特例を「見直す」という文言がはいり、これをトリガー条項と呼ぶようになりました。同時に暫定税率が適用されていない時にガソリン価格が3カ月以上130円を下回った場合には、再度暫定税率が適用されることにもなりました。

しかし2011年3月11日に発生した東日本大震災の復旧・復興の状況等を勘案し、「別に法律で定める日」までこのトリガー条項の適用を停止することが、同年4月にやはり旧民主党菅政権下で決まってしまいました。この時点で新しく法律を作らない限り、トリガー条項は「存在しない」ということです。

ガソリン税について、二重課税の観点から憲法違反ではないかという指摘もあります。しかし、身近なところでは、酒税、たばこ税、自動車取得税など二重課税となっている税金はガソリン税だけではありませんし、ガソリン税以外の二重課税が大きな社会問題となったことはないのではないかと思います。

最近増えている電気自動車と従来型のガソリン車では税負担の公平感が損なわれているという指摘もあります。確かに電気自動車を使えばガソリン税を負担しなくてもよくなります。これはガソリン税が道路整備のため財源確保という立法趣旨のままであれば、その通りですが、既に一般財源化されてしまっています。ただ、電気自動車にも自動車税や自動車重量税は課せられます。

どんな政権でも税金を「きちんと」徴収してから「再分配」(バラマキとも言う)をした方が政権を長く維持できます。つまり減税は意外と選挙時の票には結びつかいないと考えられています。しかし国家の歳入と歳出のバランスを考えれば、減税の方が合理的です。というのは、「徴収」した後で「再分配」を行えば、給付のためのコストが余計に掛かってしまうからです。そのコストが膨大であることはコロナ給付金で実証されていますし、山口県阿武町事件のような人為的ミスが増えることも実証されています。しかし与党、野党に関わらず政治家はあまりやりたがらないということです。

もうひとつ資料を掲載します。1984年以降のニューヨーク先物市場での1バレルあたりの原油価格の推移です。これは通常ドルで示されますが、これに円とドルの為替を掛けて日本円で作ってみました。1985年のプラザ合意後、円高が進行しました。これによって日本円に換算した原油価格は下がり、長期にわたって安定してきました。もちろん国際紛争や産油国の政変、減産計画、シェールガス革命、地球温暖化対策などによりその間も価格は変動してきました。しかし今般のロシアによるウクライナへの侵攻と、急速な円安によって日本が輸入する原油のコスト上昇には恐怖を覚えます。トリガー条項を作って、などと悠長なことは言っていられませんし、もはや25.1円というのは焼け石に水でしょう。

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