NISM コラム
お金にまつわるつぶやき
Vol. 3 地方自治体が抱える問題 ー 山口県阿武町、三重県南伊勢町=町立南伊勢病院
投稿日:2022.07.07
ことの発端は、2022年4月に阿武町が低所得者463世帯にコロナ給付金10万円ずつ計4,630万円を送金しようとしたところ、誤って24歳の男性1人に4,630万円を余計に誤送金したことにあります。この男性も含めて463世帯に10万円ずつ送金したので、阿武町としては9,260万円を出金していて、この男性の口座には4,640万円が振り込まれたことになります。その後の経緯はマスコミなどの報道もあるので割愛しますが、結果として全額が阿武町に返金されました。
誤送金された4,630万円+自分で受け取る給付金10万円=4,640万円の当初の使途は、ザックリとデビット決済で340万円消費し、残りの4,300万円は海外ネットカジノで磨ったとされていました。海外のカジノで賭博行為をするためには、掛け金を“専門”の決済代行業者を経由して送金する必要があるそうで、実際に決済代行業者3社に合計4,300万円を送金した記録が口座に残っていました。
さてこの男性の供述が本当で4,300万円をカジノで磨ったとすると、決済代行業者はなぜこの男性に代わって阿武町に支払ったのでしょうか?真相はもちろん明らかではありませんが、決済代行業者は、もっと重要な守るべき顧客のために、これ以上捜査の手が及ばないように身銭を切ったのかもしれません。あるいは同じ理由で、4,300万円をこの男性に貸付たのかもしれません。後者の場合、この男性のもつ債務が阿武町から決済代行業者に移っただけなので、この男性は阿武町より高い金利、厳しい取り立てを受ける可能性があります。
しかしこの男性が虚偽の供述をしていた場合、さらに多くの憶測を招きます。この男性は最初から決済代行業者と組んでマネーロンダリングを企てていたのかもしれません。しかもそれが「誰」かの指示によるものだった可能性も否定できません。最後にこの男性が消費してしまった340万円も「誰」かが肩代わりして支払ったことになっています。報道では「白馬の騎士」とか「篤志家」となっていますが、二人の「誰」かは同一人物である蓋然性があります。
全くもって真相は闇ですが、阿武町としては誤送金したお金が戻り、「ふるさと納税」も増えてめでたし・めでたしと一件落着のようですが、本当の問題はここからです。この事件が公表された時に感じたことは、規模の小さな地方自治体では同じような「事件」が水面下で何件も起こっているのではないかということです。
阿武町は誤送金の事実を2週間公表せずに水面下での交渉を続けたのですが、これは地方の小さな町では出納担当者の顔も名前も直ぐに知れ渡るので身贔屓な気質も影響したと考えられます。そして町長に連なる町役場における出納担当者の上司たちの事なかれ主義も大きく関係していると思います。今回の事件は不祥事とは言い切れない人為的ミスが重なったもので、それに対する処分が公務員の身分保障の問題と相まって不明確なことだと思います。また、配置転換をしようにも人材が確保できるのかという問題もあります。
そう考えていた矢先、三重県南伊勢町で今度は職員による不祥事が報道されました。町立南伊勢病院の会計担当者(南伊勢町役場からの出向者)が、1億円以上ものお金を横領していたという事件です。容疑者は病院の会計・出納をほぼ一人で担当していたとのことですが、この不正は3年間にわたって行われていたという点が問題です。病院はこれまでに少なくとも2度の年次決算をしていて、しかも毎月監査をしていたとのことです。ヒトは間違いを犯す生き物であり、誘惑に弱い動物でもあります。これら二つの「事件」は氷山の一角ではなかいと危惧しています。地方自治体のガバナンス、人材不足、危機管理の欠如を問うことは簡単ですが、抜本的改革は日本全国すべての市町村にとって喫緊の課題だと思います。ひとつの解決策としては、ガバナンスや監査も含めトータルパッケージとして会計サービスのアウトソーシングを検討してみては如何でしょうか。少なくとも責任の所在が明確になります。