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NISM コラム

お金にまつわるつぶやき

Vol. 15 八十二銀行と長野銀行が経営統合へ

投稿日:2022.09.29

 経営統合とは聞こえが良いですが、実際には八十二銀行による長野銀行の吸収合併です。両行が話し合いを重ねて基本合意に達したということになっています。事実話し合いがあって合意に達したのだと思いますが、金融機関同士の経営統合や合併はほとんどの場合が財務省の「主導」、「指導」によるもので、金融機関同士が自ら経営統合を話し合うことはあまりないのではないでしょうか。

 特に長野市に本社のある八十二銀行と、松本市に本社のある長野銀行がお互いに自ら話し合いをすることは、考えにくいと思います。現在の都道府県には、県庁所在地一点集中型の鹿児島県、高知県、宮城県だけでなく、静岡県の静岡市と浜松市のように分断されている県もあります。静岡市と浜松市は、人口、面積、経済規模などが拮抗していて、人的交流も少ないため犬猿の仲と言われています。かつての長野市と松本市も同じような時代があって、長野県から松本県が独立するのではないかと言われた時代もありました。

 さて、八十二銀行は、1872年に施行された「国立銀行条例」によって設立された「国立番号銀行」(ナンバー銀行)と紛らわしい名称です。「国立」銀行といっても「国の法律によって立てられた銀行」という意味で、国営ではなく「私営」の銀行でした。1879年に法改正が行われるまでの間に153行が設立されました。設立許可順に番号が割り当てられたので、「第八十二国立銀行」もあったはずですが、今話題の八十二銀行は全く関係がありません。因みに第一国立銀行はその後、第一銀行、第一勧業銀行、みずほ銀行となっています。

 八十二銀行は松本市を含む中信地区以外の中小規模の銀行が合併を繰り返して大きくなりました。その合併には「第十九国立銀行」と「第六十三国立銀行」の合併も含まれていて、19+63=82という算数によって命名された銀行名です。

 他方長野銀行は、松本商工会議所中心になって設立された信用組合からの出発です。その後、相互銀行、普通銀行と転換してきましたが、あくまで「松本(中信地区)」の銀行です。今回の合併を八十二銀行からみれば、長野県内の「最後の牙城」を攻略することとも考えられます。

 ただ、金融機関をとりまく環境は長引くデフレ=ゼロ金利政策により収益力が低下し、長野市と松本市のエモーショナルな対立などと言っていられない状況ではあります。そのため長野銀行からみれば八十二銀行に「吸収される」悲哀は少ないのかもしれません。実際に財務省主導の合併は、吸収する側の企業が吸収後に収益力が下がることもあり、吸収する企業が必ずしも「吸収合併」を望んでいないこともあります。つまり財務省主導の主眼が「吸収される企業」の救済が目的である可能性があります。今回の「歴史的合併」の主眼がどこにあったのか、時間が教えてくれることになるでしょう。

ちなみに9月28日に報道があって、翌日の株価をみると、八十二銀行の株価が若干上がったのに対し、長野銀行の株価は大幅にアップしていましたので、マーケットはこの合併を歓迎しているようにみえます。

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