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NISM コラム

お金にまつわるつぶやき

Vol. 16 年収8,000万円のすし職人…

投稿日:2022.10.25

 今話題のヒトは、田中康博さんという37歳のマイアミで活躍するすし職人です。マスコミではオーストラリアやカナダでワーキングホリデー(ワーホリ)を利用して“稼ぐ”若者が一緒に紹介されていますが、彼らと田中さんを同一視することはできないと思います。

 語弊があるかもしれませんが、ワーホリの趣旨は働きながら語学や文化を「学ぶ」ことです。20歳代のごく一般的なすし職人がワーホリを利用して海外ですし職人をして、僅か7年で年収8,000万円ということは不可能です。つまり田中さんの成功にはいくつかの秘密があります。

 一つ目は、田中さんは大学を卒業後、青年海外協力隊員としてアフリカのモザンビークでエンジニアとして働いていたことです。この時点で考えられることは、相応の語学力と論理的思考を持ち、国際関係に興味があり、身体的に非常に健康であることです。

 二つ目は“東京すしアカデミー”で基礎を学んだことです。飯炊き3年、握り8年と言われるすし職人の修業を僅か6か月で行うという学校です。この学校は特に海外で働くすし職人の養成にも力を入れていて、すし店の経営も学べる学校です。

 三つ目は、ミシュランガイドにも載る「銀座いわ」で2年半修業を積んだことです。久兵衛、かねさかの系譜を継ぐ名店に、職人として誰でもが入店できるわけではないでしょう。田中さんは学校でアカデミックにすしを学んだ後、江戸前の言わば本流と言われる名人の下で修業を重ねることができました。

 四つ目は先輩の“引き”です。銀座の名店の兄弟子が開いているニューヨークのすし店にセカンドシェフとして呼ばれたことです。アメリカは就労ビザの取得が難しいので、就職先が未定のまま合法的に渡米することはほとんど不可能です。

 少なくともここまでの条件がすべて揃った上で、田中さんの職人としてのセンスの良さや地道な努力、経営者としての資質、人柄=人脈などが加わり、そして「運」も味方しての成功だと考えられます。そして8,000万円の年収はすし職人としてだけではなく、店の経営者としての収入も当然含まれます。一人のすし職人の年間売り上げ*はせいぜい2,000万程度が限界です。(*収入ではなく年商)

 ここで本題ですが、田中さんの年収は約8,000万円ですが、1ドル150円で換算すればおよそ50万ドルです。しかし1ドル80円で換算すれば4,000万円です。これは為替のカラクリですが、昨今の急激な円安が田中さんの成功をよりセンセーショナルに映し出しているといえます。この報道を見て出国する若者が増えているそうですが、道は険しいと言えます。

 そしてこの超ドル高の為替状況について、アメリカと各国との金利差が原因との見方が大半です。しかし金利差を縮めてポンドの浮上を図ろうとしたイギリスは失敗し、トラス首相は辞任に追い込まれました。

 円安に対する処方箋は二つ、ひとつはアメリカが金利を下げることです。しかしこれは他人頼みです。国内で唯一できることは賃金アップだけです。過去20年の間、日本ではほゞゼロでしたから。

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