NISM コラム
お金にまつわるつぶやき
Vol. 10 オリンピックとお金の問題ー「コモンズ」とは「顧問S」の意味です
投稿日:2022.08.23
オリンピックはお金のかかるイベントです。世界中のアスリートを1か所に集めて、できるだけ公平・公正な競技を行うためには、旅費や宿泊費だけでなくルールに則った競技場や審判の手配、計測機器など膨大なコストが想像できると思います。近年はそれらにテロ対策なども加わり、コストは天井知らずの様相です。
2020年オリンピック東京大会の招致にあたり、不透明なお金の流れ(「おもてなし」)があったのではないかと、日本オリンピック委員会元会長をフランス検察当局が捜査をしています。しかし過去にはオリンピック招致合戦がないという時代もありました。
オリンピック開催に関わる莫大な費用は、開催都市および開催国が税金によって賄われていました。特に1976年のモントリオール大会では10億ドルにも上る巨額の債務がモントリオール市とケベック州に残され、その債務が完済されたのは30年後の2006年でした。その為1978年当時、1984年大会の開催地を決める際に立候補をした都市は、ロサンゼルスだけでした。
そのロサンゼルスも開催が決定した直後に住民投票が行われ、住民はモントリオールでの教訓から大会運営資金としての税金投入を拒否しました。1984年のロサンゼルス大会は、商業五輪というと余り良くない響きがありますが、公的資金(税金)を1セントも使わずに成功裏に開催することができた画期的な大会になりました。そして最終的には約2億ドルの黒字となり、それを原資とした財団を作り、アメリカのスポーツ振興などに役立てられています。
1984年のロサンゼルス大会では1932年の前回大会の時に建設したスタジアムを使用し、選手村は大学の寮を利用するなど歳出を徹底に削減する一方、収入も最大化させました。
まずテレビ放映料は、ABCと当時の邦貨換算で約450億円で独占契約をし、しかも前払いにさせました。そしてスポンサー企業を1業種1社、合計30社に絞り、1社あたりのメリットを増大させる代わりに協賛金を増額しました。さらに入場料収入と記念グッズの売り上げを加えました。しかしそのため、開催時期、競技スケジュールなど大スポンサーであるテレビ放送局の支配を受けざるを得なくなり、商業主義というレッテルが付きました。
ところが、オリンピック大会が単独で黒字になったのは1984年のロサンゼルス大会だけで、その後は、開催都市が巨額の公的資金を投入しています。理由は大会自体が単独で赤字であっても「経済効果」を加味すれば開催都市に経済的メリットがあり、長期的には赤字ではないという考え方が浸透したためです。
また、「発展途上国」がオリンピックを招致すれば、もともと計画していたインフラ整備などが前倒しで実施されるので「赤字」は「投資」と見ることができます。さらに開催地には世界中から人が集まるので多くの臨時収入が見込まれ、直接的な経済効果があるという考え方が浸透しました。そのため再び招致合戦が繰り広げられるようになりました。1964年の東京大会は、当時「発展途上国」であった日本の首都でのオリンピック開催であり、これによって都市インフラの整備が急ピッチで進みました。
さて、日本がまだ「発展途上国」であるかどうかは別にして、「式年遷宮の国」なので56年前の東京大会の時の施設は「建て替え」なければいけません(笑)。そこで東京は2020年の大会に立候補をして、「おもてなし」によって招致を成功させました。ところが、世界的なパンデミックにより、開催が一年遅れただけでなく、原則無観客開催ということになってしまいました。
こうなると、「経済的効果」が消滅しただけではなく、「本業」の入場料収入やグッズの販売まで失うことになりました。現在、ワクチン接種会場や献血会場も含む、東京都が関係するイベントでは「お土産」としてオリンピックグッズが無償で配られています。
オリンピック東京大会2020は、大会そのものの収支が厳しいだけでなく、期待された「経済効果」もかなり限定的になってしまいました。そのため「おもてなし」に協力した、スポンサー企業が「オリンピック投資」について精査を始めました。その中で「みなし公務員」である理事とスポンサー企業の関係にメスが入っているということだと考えられます。
現在名前が挙がっている方々が「トカゲの尻尾」にされて収まるのか、あるいは氷山の一角から全貌が明らかになるのか不明ですが、公的資金が多く投入された大会であるだけにその帰趨に納税者はもっと関心を持つべきでしょう。ちなみに株式会社コモンズとは、「顧問s」という意味。