NISM コラム
お金にまつわるつぶやき
Vol. 7 台湾(中華民国)と中華人民共和国…付加価値税から見えるモノ
投稿日:2022.08.07
米国下院議長のペロシ氏が台湾を電撃訪問をし、中国を苛立たせています。武力による現状変更を許さず、世界の民主主義を守るという米国のコミットメントとのこと。他方中国は「一つの中国」という原則に反すると、猛烈に反発しています。
米国の言い分に従えば、千島列島や樺太島等の北方領土など日本の実効支配が及んでいない領土は「諦めろ」ということになります。実際に台湾ではGoogle, Facebook, Twitter などが使えますので中国の実効支配は及んでいませんから、事実上「独立」した地域ですし、これが現状です。
他方、中国の言い分に従えば、ペロシ氏は中国の領土を訪問したのですから「軍事演習」とか「非難声明」など出さずに、「自分の領土」を訪れた外国の要人を友好的に歓迎するべきでしょう。また、台湾への砂の輸出制限や台湾からの農産物の輸入制限を始めました。「輸出入」は「外国」に対しての取引を指しますので、これは自己矛盾です。
また、米国は「民主主義を守る」と言っていますが、台湾(中華民国)の民主化の歴史は浅く日本の国会にあたる立法院の選挙は1948年に行われたあと、1992年まで「戒厳令」のため議員の任期が延長され続け、選挙は行われていませんでした。それまではいわゆる「開発独裁」国家で、リ・クアンユーのシンガポール、マルコスのフィリピン、スハルトのインドネシアと並んで蒋介石-蒋経国親子の台湾(中華民国)でした。総統の直接選挙が行われたのは1996年で、その時も中国は台湾近海で軍事演習をし、米国は第七艦隊を派遣するなど緊張が高まりました。中国では普通選挙をやっていなので、「一地方」が普通選挙をすることが許せないのでしょう。
さて、台湾と中国の付加価値税に関するザックリとしたお話しです。2022年8月現在、日本ではいわゆる帳簿によって消費税(付加価値税)を管理、納税することになっていますが、台湾も中国もインボス方式です。台湾の営業税(付加価値税)は5%で、1986年の導入以来一般品目の税率は変わっていません。理由のひとつは営業税の脱税が非常に少ないことが挙げられます。なぜか?事業者は領収書やレシートが「統一発票」という公式領収書を税務署から購入しなければなりません。この統一発票に通し番号が付いていて、2か月ごとの当選番号が発表される「宝くじ」になっています。そのため一般の消費者も買い物の際に必ず公式レシートを求めるので、事業者が売り上げを誤魔化しにくくする効果があります。
一方の中国ですが、共産党政権下では個人に対する所得課税という概念が元来非常に希薄でした。個人所得税は、建国後間もなく1950年に制定されましたが、基礎控除額が800元なのに対して平均収入が64元でしたので、ほとんどの人民は課税対象外でした。建国当時、中国人民の所得水準は非常に低く、ほゞほゞ「絶対的平等」=共産主義が実現していたとも考えられます。関税以外に個人からの税収による歳入を目指し始めた政府は1979年に増値税(付加価値税)を導入します。共産主義における税収の大黒柱として、最初から17%と設定されました。
中国の増値税はインボス(発票)式ですが、一般消費者の反感を抑えるため、税率を明示せず、しかも内税にしました。一般品目の税率は段階的に17%から13%に下げられましたが、価格に反映されていないので消費者は減税を実感できない仕組みになっています。
台湾も中国も付加価値税について、非課税品目、軽減税率、あるいは高級品などに対する「物品税」、酒税、たばこ税など実際には細かく設定されています。しかし本稿ではザックリと2つの地域の「国情」の違いや、政府の住民に対する考え方の違いに注目させるために5%、13%と表記しました。その意味では日本の付加価値税は10%です。