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NISM コラム

お金にまつわるつぶやき

Vol. 19 ウクライナはどこへ行くのだろう

投稿日:2022.11.25

 2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、特別軍事作戦としてひと月も経たないうちにロシアがウクライナを征服してしまうのではないかと当初は考えられていました。

 序盤でのロシアの進撃は特別軍事作戦の成功を予感させましたが、その後の展開は世界中の多くの方々が知るように「ウロ戦争」となり状況は混沌としています。欧米諸国の軍事支援とロシア軍の失策のため軍事力が拮抗し、長期化してしまっています。

 両陣営は軍事や情報戦だけではなく、食料や燃料など資源までも兵器として戦争を継続しています。そのためこの戦争が世界経済と環境問題に大きな影響を及ぼしていますが、その影響が思いもしないところに現れたのを先日目の当たりにしました。

 10月中旬から4週間にわたってハンガリー国立歌劇場が日本縦断引越し公演を挙行しました。モーツアルトの人気演目である、歌劇「魔笛」を引っ提げて巡業です。ところが公演を観に行ったオペラ通の友人は口々に「主役級の歌手の調子が悪い」と言っていました。

 たまたま歌劇場オーケストラの楽団員と食事をする機会があったのですが、そこで楽団員は「申し訳ない。歌手の調子の問題ではなく、才能の問題だ」と。昨今のウロ戦争の影響でハンガリーは計画停電などエネルギー危機に直面し、緊急財政政策のために今回の引越し公演の予算も半減されてしまったとのことです。

 結果としてオリジナルキャスト(オペラ歌手)はギャラが当初提示額より半減したために全員降板してしまい、半減されたギャラでもこの仕事を受けたキャストだけで公演を続けているとのことです。チケット代金は変更ありませんでしたが、実質的な値上がりだと言えます。

 さてこの戦争の「落としどころ」はまったく予断を許しませんが、そもそも今回ロシアが一方的に併合した4州に何故大量のロシア系住民が居たのか不思議に思っていました。ウクライナの土地は、歴史的にポーランド、リトアニア、ロシア、トルコ、タタール、元などが代わる代わる支配し、黒海沿岸にはギリシャ、ローマ、トルコ、ヴェネチアなどが植民都市を築いてきました。またウクライナは、ローマカトリック、ギリシャ正教、ロシア正教、イスラム教など宗教的にも闘いの場でありました。

 ザックリと言えば、”ウクライナ”の土地は19世初頭までには欧州最大の穀倉地帯になっていたのですが、都市には、大地主であるポーランド系貴族、ロシア系貴族、ユダヤ系商工業者が住み、そのほとんどが農民あるいは農奴であったウクライナ人は都市以外の穀倉地帯に「分散して」住んでいました。

 そして19世紀後半に産業革命が起こります。製鉄と鉄道敷設です。製鉄に必要な鉄鉱石はドニプロ川右岸ヘルソン州の北隣にあるクルィヴィーナ・リーフで、石炭はドネツク州ドンバスで大炭田が発見されました。

 タイムリーに鉄鉱石と炭田が発見されたのですが、労働者がいません。ウクライナ人の多くはウクライナ語が通じない都市への移住を拒みました。そこで約300万人とも言われるロシア人が工場・炭鉱労働者として移住してきました。当然労働環境は劣悪であったので、実は彼らがその後のロシア革命の推進者となったのです。彼らは生粋の「ソヴィエト」主義者で、ロシア復権=ソヴィエト再興を目指すプーチン大領領の筋金入りの支持者となっています。

 ロシア革命に前後して大量のウクライナ人が北米および沿海州に移住しましたが、アメリカ行きの移民船に乗ったつもりが、ウラジオストックに着いたというようなことがしばしば起こったとか。ウクライナ南部で工業化によって農地を追われたウクライナ人の多くは沿海州、満州国、樺太(サハリン)、千島列島に移住した結果、本人の自覚のあるなしに関わらず、極東ロシアの住民は過半数がウクライナ系と言われています。

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