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NISM コラム

お金にまつわるつぶやき

Vol. 18 トラス首相の失敗から学ぶこと(2)

投稿日:2022.11.11

 英国トラス首相は経済政策の失敗により就任から僅か45日で退陣となってしまいました。英国経済が景気停滞局面でインフレが同時進行するというスタグフレーションの状況にあるにも関わらず、財源を示さずに減税を発表し、金融引締め(政策金利の上昇)を宣言したからです。

 スタグフレーションはインフレの様に見えても実際はデフレなので、インフレではなくデフレ対策をしなければなりません。そしてスタグフレーションの状況下では減税も増税もできないということが理解できていなかったとしか思えません。

 「雉も鳴かずば撃たれまい」、トラス首相は「鳴いた」ので「撃たれました」が、岸田首相は別名「検討使」と言われるほど「鳴かない」ので「まだ撃たれて」いません。しかし内閣支持率は確実に下がっています。

 日本経済の置かれている状況は自国通貨安による「不況」+「インフレ」ということで、英国の状況に似ているようにも見えますが、実態は大きく異なります。日本は真正のデフレが続いた中で、円安によるインフレが少しだけ始まった状況です。つまりスタグフレーションではなく、ザックリと言えば総需要が低すぎるだけです。

 まず円安対策としての政策金利の上昇が考えられますが、日本経済の現状では今すぐ実施することは不可能です。それは雇用の7割、総付加価値の5割を担う中小企業が「民間ゼロゼロ融資」によってシャブ浸け状態にあるからです。この借入金の返済が2023年夏から2024年春に始まります。当然返済などできないので借換となりますが、その時に金利が上がっていては借換ができずに倒産する企業が出て来るでしょう。   

 ということで、今のタイミングで金融引締めに舵を切り、政策金利を上昇に転じさせると多くの中小企業が倒産するので、国会議員は与野党ともそれはできないでしょう。もちろん事業を継続させる価値のない中小企業を淘汰するのであれば意味はあると思いますが…。

 今の日本政府に可能な対策は、大きく分けて「減税」と「補助金」(バラマキ)です。そして民間企業労働者の賃金上昇です。これらの3つを分けて考えます。  

 まず減税と補助金ですが、国会議員の大きな仕事は法律を作ることと予算を作ることです。国会議員としては減税でも補助金でもどちらでも構いません。予算化した時点で「やり遂げました感」をアピールできます。しかし財務省としては断然補助金です。ガソリン税などをみても明らかで当然廃止しなければならない税金を頑なに死守しています。しかし実はバラマキは金融機関への手数料のほかに莫大な事務手数料が掛かります。  

 財源再分配の効率・効果を考えれば減税に分がありますが、予算化したら最後、100%使われます。ところが補助金は申請によるバラマキなので未消化分が残ります。100%使われることは稀にも関わらず、国債などを余分に発行して埋蔵金を増やすことが可能です。財務省がこんなことをやっているから不正受給者が後を絶たないとしか思えません。宏池会の正統な後継者を自認する岸田首相は財務省寄りの政策になるでしょう。  

 何れにしても財源の問題があります。ここは巨額の埋蔵金を使うべきでしょう。9月27日の弊コラムで紹介した「外国為替平衡操作(為替介入)」による蓄積された外貨為替資金特別会計(外為特会)です。円高の時にドル(米国債)を買い、円安の時にドルを売っています。1ドル80円の時に100ドルを買えば、コストは8,000円です。その100ドルを1ドル150円の時に売れば、15,000円です。つまり8,000円が15,000円に増えるのが外為特会です。これが積もりに積もって現在の残高は1.4兆ドル、約180兆円です。国会予算のほゞ2倍、GDPの約30%に相当します。https://nism-assoc.com/blog/20220927/

 もちろんこれをゼロにするべきではありませんし、基準となる金額も定かではありません。しかしG7の他の国ではGDP比で凡そ5%前後です。30%は飛び抜けて多いと思います。これを財源にすれば、減税でも補助金でも国債の発行や増税なしにできます。問題は財務省が埋蔵金を出したがらないことで、財務省にモノを言える政治家が必要でしょう。

 話しは逸れますが、防衛費の増額についてもこの埋蔵金を装備品の購入には充てることができ、増税を最小限に抑えることが可能だと考えられます。

 さて民間企業の賃金ですが、これは2022年9月発表時に516兆円を超えている企業の内部留保を原資にするべきでしょう。国会で内部留保に課税をする法律を作れば済むことです。二重課税というヒトもいますが、酒税もガソリン税も二重課税です。また、内部留保を取り崩すと株価が下がるというヒトがいますが、それは全くのレトリックであって留保金から配当を増額すれば株価は上がります。法人税を引き下げ、控除額を決めた上で米国並みに20%程度課税する法律を作ればよいのです。二重課税を嫌うのであれば、企業は余剰資金を賃上げ、設備投資、配当に回し、海外からの投資も増えるでしょう。

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