NISMアソシエイツ株式会社

NISM コラム

お金にまつわるつぶやき

Vol. 21 増税なしで1兆円が賄えるわけ

投稿日:2022.12.16

 ロシアのウクライナへの侵攻、中国の海洋進出と台湾統一への野心、北朝鮮のミサイル実験など、最近は防衛に対する国民の意識が盛り上がっていることは前述の通りです。そして防衛庁は来年度予算の概算要求は、本年度より10%程度増額し6兆円を超える見通しになってきました。

 それを受けてか、12月6日に岸田首相は、2023年度から2027年度までの5年間で防衛費を総額43兆円にする方針を示しました。日本の防衛費はGDPの1%程度というシーリングがあって、これまでほぼその水準を維持してきましたが、43兆円は単純に計算して防衛費をこれまでの1.5倍にする計画です。これは明らかにNATOを意識した方針です。

 つまりアメリカの核の傘下にあるNATO各国は、GDPの2%程度の防衛費を確保させられることになったからです。これまで日本同様に1%のシーリングを持っていた、同じ第二次大戦の敗戦国であるドイツは、いち早く2%に引き上げました。

 こういった状況があっての43兆円ですから、当然中身はまだない筈です。イージス艦、防空システム、サイバー戦争、宇宙戦争などもっともらしい項目はありますが、金額の積み上げではありません。そもそもイージス艦やパトリオットが本当に有効な防衛装備とは言えないことが、現在ウクライナで証明されています。来年度の概算要求ですら具体的な金額がまだ積み上がっていないのですから、5年計画の中身の金額が積み上がっていないのは当然でしょう。

 まぁ、ハッキリ言って外圧による増額であるので、まず43兆円という金額ありきです。岸田首相としては一気に2%への引き上げは難しいので1.5%位で「勘弁して」と、アメリカにお願いしたのでしょう。防衛費の増額については昨今の状況からみて多くの国民のコンセンサスを得ることができるかもしれませんが、問題は不足する財源を「増税」によって賄うという方針です。

 防衛費の増額について、安部首相は在任中から「国債」で賄うと言明してきました。理由は後々の世代のための防衛費なのだから、後々の世代も含めて負担していくという方針でした。ところが岸田首相は、後々の世代に負担を掛けないために「増税」という大きな方針転換を政府与党内のコンセンサスもないまま首相官邸で決めたようです。

 ここで思い起こされるのは、宏池会の総理ということです。つまり岸田政権は首相官営主導で決めたのではなく、財務省の意向に従って決めたということです。国債反対、増税賛成、埋蔵金発掘反対、減税よりはバラマキ、予算だけ付けて未消化賛成という財務省が言い出しそうな方針ですね。

 さて財務省には嫌われるでしょうが、防衛費の増額は増税なしで賄えます。これまでにこのコラムで紹介してきたように、180兆円もある外為特会(政府埋蔵金)と518兆円もある民間企業の内部留保(民間埋蔵金)の活用です。外為特会は政府・日銀が為替介入をするたびに増え続けています。

 財務省からすると、外為特会などすでに国庫にあるお金は「自分たちのお金」なので、「自腹」を切りたくないと言う考え方です。国債は国の借金ではなく、「自分たちの借金」と思い込んでいるので、これは増やしたくない。そして増税によって「自分たちの収入」を増やすことだけを考えているのです。行政改革は「自分たちの権限を縮小する行為」なので、行政改革に対する最大の抵抗勢力は財務省です。

 ことある毎に「検討使」と呼ばれている岸田首相が、増税だけは素早く決めるのは財務省の意向だからです。かつての宏池会は財務省官僚出身議員の集まりで、財政のプロとして大所高所から政策を繰り出しましたが、財務官僚出身でもないシロウトの宏池会会長は財務省の言いなりになっているというそしりは免れないでしょう。財務大臣も「麻生さん」の親戚というだけのお飾り大臣であることもそれを裏付けしています。

 企業の内部留保はアメリカ並みに20%程度課税すれば良いのです。内部留保に課税すれば二重課税と言われますが、ガソリンもたばこも酒類もみな二重課税です。認める法律を作れば良いのです。

 企業の内部留保に課税すればそれだけで100兆円ですが、そうはならないでしょう。企業は二重課税を嫌いますから、まずは法案に反対します。でも法案が通れば内部留保は適正レベル(控除額)まで下げられ、余剰資金は賃上げ、配当、設備投資に回されます。配当は株価を上昇させますし、賃上げと設備投資は景気を押し上げGDPそのものを押し上げます。つまりいいこと尽くめなのです。

 故安部首相は27回もプーチン大統領と首脳会談をしました。北方領土の返還ではなく、北方領土における資源開発、特にサハリン1および2を通じて、北から攻め込まれないようにするためだったのでしょう。なぜなら第二次大戦末期日本との開戦を拒んでいたスターリンに対し、ルーズベルトは北方領土を餌に開戦をさせたのですから、ソ連(ロシア)にとっては約束の成果物であり、返還する理由などないからです。ただ、ノルドストロームもサハリンプロジェクトもウクライナ戦争のため、中断されてしまっているので、戦争に対する抑止力にはなっていないという現実もあります。

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