NISMアソシエイツ株式会社

NISM コラム

お金にまつわるつぶやき

Vol. 22 賃上げって首相がお願いすることですか?

投稿日:2023.01.18

 1月5日の経済三団体(経団連、日商、経済同友会)共催の新年祝賀会で、岸田総理はあいさつをし、「インフレ率を超える賃上げをお願いしたい」と述べました。

 賃金も本来は市場原理で決まります。求人が多く、求職者が少なければ賃金は自然に上昇します。インフレと金利上昇が続いているアメリカの昨年11月の失業率は3.7%です。これはコロナ禍が始まる直前と同水準なので、2020年4月に14.7%と急激に上昇した失業率が完全にもとに戻ったという状況です。実際にアメリカでは飲食店のチップが20%も求められています。飲食店側から顧客に対し、チップをはずまないと店員が集まらないので強くお願いされているという状況です。

 では日本の失業率はどうかというと、昨年11月の実績は2.5%でコロナ禍の始まる直前の2.4%に限りなく戻っているようにみえます。しかし日本ではコロナ禍の最中でも年平均で2.8%と、他国と比べると失業率はほとんど変わっていませんでした。コロナ禍の前も日本は賃金上昇は停滞していたので、ポスト・コロナに近付いても失業率の改善は見られません。つまり需給バランスが変わらない状況で賃金だけを上昇させるのは無理があります。また、非正規雇用割合は上昇傾向にあるので、2.5%という数字は0.5ポイントほど割り引かなければならないと考えられます。つまり実質の失業率は3.0%程度が肌感覚でしょう。

 インフレについては、昨年12月に東京都区内の物価が40年ぶりに4.0%上昇したとマスコミが報道しています。しかし日本全体で輸入品を除けば物価上昇率は2.7%でしかありません。またコロナ禍で高額品の消費が大きく落ち込んでいる状況なので、実質的な物価上昇率は2.2%程度と見積もることができます。

 物価の変動を測る基準は消費者物価指数の他にGDPデフレーターというものがあります。名目GDPを実質GDPで割った数値です。GDPは国内総生産でその国の経済状況を示す指標のひとつですので、輸出はプラス、輸入はマイナスで計算されます。このGDPデフレーターの四半期毎あるいは年度毎の数字を比較することによってインフレ/デフレが発生しているのか知ることができます。昨年の第3四半期ではマイナス0.3%です。つまり消費者物価は恐ろしい勢いで上昇しているにも関わらず、まだ若干のデフレ状態でインフレには至っていないことが判ります。

 日本経済が健全に成長軌道あるいは「好循環」に入るためのマクロ経済学的指標は、失業率2.5%、インフレ率2.0%と言われていますが、実態は失業率3.0%、インフレ率1%だということがわかります。

 この状況下で「利上げ」や「増税」を行えば、景気は悪化するので、経済好循環のゾーンに入るまでは政府はその方向に政策を打ち出すべきです。ところが岸田政権では、勇み足的に「利上げ」や「増税」を行おうとしています。経済好循環ゾーンに入れば賃金は自然に上昇し、金利は上がり、税収も増えるのに、それを妨げるような政策を打ち出し、一方では経済界に無理筋な賃上げをお願いしているありさまです。

 これは政権内部あるいは周辺に利上げや増税をしたい人が多くいて、声も大きいため「聴く耳を持つ検討使」であり、経済音痴な総理はそれに操られているのでしょう。英国トラス首相の例をみても市場原理、マクロ経済理論を超越した、あるいは無視した政策、政権に将来はありません。早く気が付かれることを祈るばかりです。

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